Accessibility Settings

color options

monochrome muted color dark

reading tools

isolation ruler

新型コロナウイルスはすでに世界最大の話題になっている。米ジョンズ・ホプキンス大学と、同大学医学部傘下の医療施設ジョンズ・ホプキンス・メディスンが作成したCOVID-19 マップの最新のデータによると、1100カ国以上に感染が広がり、4,262人が死亡、118,101人以上の感染者を出している。この世界的な公衆衛生上の緊急事態—世界保健機関(WHO)が近年宣言した6つのうちの1つで、2009年の豚インフルエンザから始まった—は、すでにグローバル経済で数十億ドルの経済的損失を出し、ブルームバーグによると損失額は最終的には計2兆7000億ドルにのぼるとされている。

これらすべての数字と見積もりをもってしても、COVID-19がどこまで広がり、究極的にどんな結果になるかを推測することは難しい。すべてが不確実な中で、世界中のジャーナリストは、パニックを煽らないようにしながら、この伝染病を取材する上で多くの課題—誤報との闘いや現場での記者の健康リスクとの闘いなど—に直面している。

ジャーナリストの取材を支援するために、GIJNのMiraj Chowdhuryはさまざまなジャーナリズム組織や経験豊富なジャーナリスト、専門家からのアドバイスをまとめた。私たちはGIJNの言語別のガイドやソーシャルメディア上などで、報道用のリソースを引き続き展開する予定だ。現時点では、ベンガル語のCOVID-19解説がここにあるほか、中国メディアでのCOVID-19視覚化についてのGIJN中国語版の記事、さらに、SARSとポリオに関する本の著者で感染症の専門家であるトーマス・エイブラハムによる調査報道のためのヒントが利用できる。

責任ある報道

カーディフ大学のKarin Wahl-Jorgensen教授(ジャーナリズム)は最新の研究で、世界で発行部数の多い100の新聞のCOVID-19関連記事の中で、恐怖感がどのような役割を果たしたかを検証。その結果、感染の集団発生に関する記事の9分の1で、「恐怖」やその関連語、例えば「恐れる」などが使われていたことを確認した。
「これらの記事はしばしば他の脅かすような用語を使っていた。例えば50の記事が『殺人ウイルス』というフレーズを使っていた」と彼女はニーマンラボの記事で書いている。(訳注:ニーマンラボは米国ハーバード大学に設置された「ニーマン・ジャーナリズム基金」による研究所。インターネット時代のジャーナリズムの将来像に関する様々な研究とその情報発信をしている)

では、深くてバランスの取れた記事を提供し続けながら、どうしたらパニックの拡大を避けられるだろうか? 米ポインター研究所(訳注:米ジャーナリズム研究機関)のアル・トンプキンス(彼はCOVID-19について毎日のニュースレターを出す計画だ)によると、解決策は責任ある報道だという。彼の提案の概要は次の通り。

  1. 報道では主観的な形容詞の使用を減らす。例えば、「死に至る」病気。
  2. 写真は、間違ったメッセージが広がらないよう慎重に使用する。
  3. 予防につながる行動を説明する。それによって記事による恐怖を少なくできる。
  4. 統計的な記事は事例を伝える記事ほど怖くないことを忘れない。
  5. クリック狙いの見出しは避け、創造的な見せ方を工夫する

ポインターの別の記事でトム・ジョーンズは、発言ではなく事実を見つけることを強調し、「これは政治的な話ではなく科学的な話なのだ」と書いている。もちろん政治は重要だが、党派色の強い政治的な情報源によるCOVID-19情報の操作に注意し、医療の専門家を頼りにするべきだ。

命名

感染発生以来、記者たちはウイルスを異なる名前で使ってきた。例えば、「the coronavirus」 「a coronavirus」「new coronavirus」「novel coronavirus」などだ。「なぜなら、このコロナウイルスは、他の、それぞれエピデミックやパンデミックを引き起こしてきたコロナウイルスとは別ものだからだ。名前というのはそれぞれにつけられるものだし、これらのコロナウイルスもその時点では新型だった」と、メリル・パールマンはコロンビア・ジャーナリズム・レビュー(CJR)の最新記事で述べている(訳注:CJRは米コロンビア大ジャーナリズム大学院の学術誌)。ウイルスの名前についてさらに知りたければ、ウイルスの命名に関するWHOの説明を参照。

では、今回の感染発生にはどんな名前を付けるべきだろうか? CNNは、パンデミックという用語を使って、現在のコロナウイルスの発生を伝えている。彼らは理由をこう説明している。しかし、WHOはまだパンデミックと呼んではいないが、それには彼らなりの理由もあるのだ。[編集者注:WHOは評価を更新した。3月11日現在、COVID-19をパンデミックと命名している]

言葉は重要だ。APのスタイルブックによれば、「エピデミックとは、特定の人口または地域で病気が急速に広がることであり、パンデミックとは、世界中に拡大したエピデミックのこと」だ。APは、「これらの用語は慎重に、つまり公衆衛生当局の宣言に従って使用する」としている。APのコロナウイルスに関するスタイルブックには他のヒントもある。

安全の確保

病気の世界的感染では、ジャーナリストが自主隔離してそこから取材することはできない。我々は現場に行く必要があり、そこには感染リスクがある。米ジャーナリスト保護委員会(CPJ)は、COVID-19を取材するジャーナリスト向けに詳細なアドバイスを提供しており、現場に配置される前の準備や、流行地域での感染回避策、移動計画づくり、出張後の注意などがある。以下は、取材現場での大事なヒントの要約―

  • 医療施設など汚染された場所で勤務したり、そこを訪れたりする場合は、保護手袋を使用する。ボディースーツやフルフェイスマスクなどその他の医療関係保護具(PPE)も必要な場合がある。
  • 流行地域では湿気のある市場(新鮮な肉や魚の市場)や農場は訪問しない。(生死を問わず)動物とその周辺環境に直接接触しない。動物の糞で汚染されている可能性のある表面には触れない。
  • 医療施設、市場、農場で取材しているなら、自分の取材道具を絶対に床に置かない。メリセプトールなどの速効性抗菌ワイプで取材道具を常に除染し、その後完全消毒する。
  • 動物に触れている間、また市場や農場の近くでは絶対に飲食しない。
  • 流行地域に入る前、入っている間、そして出た後は、必ずお湯と石鹸で手をよく洗う。

専門家たち

Coronavirus

Photo: Pixabay

最新情報を入手するには、WHOのWebサイト

米国の疾病管理予防センター(CDC)、英国公衆衛生庁(PHE)をチェックすること。ジョンズ・ホプキンス大学のCOVID-19マップコロナウイルスリソースセンター最新のニュースレターもお勧め。感染者発生に関する情報提供を担当する自国の政府機関もフォローしよう。

米国プロフェッショナル・ジャーナリスト協会によるジャーナリストのためのツールボックスには、主要なリソースと情報源がリストアップされている。以下いくつか例を示す。

詳細は、ワシントンDCのナショナル・プレスクラブのオンラインセミナーか、南カリフォルニア大学アネンバーグ健康ジャーナリズムセンター​​のこれを参照。

病気の専門家を見つけるのは簡単ではない。ウイルスは未知かつ予測不能であり、COVID-19専門の研究者や医師も十分にいるわけではない。専門家を選ぶ時は、ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のウィリアム・ハネージ准教授(疫学)が示す次の5点を検討しよう。

  • 専門家の選択は慎重に。ある科学分野でノーベル賞を受賞しても、科学すべての権威になるわけではない。有名な医学部で博士号を取得したり、教えたりしていても同じだ。
  • 真実と分かっていることと真実と考えられていることを見極め、推測と意見を区別する。
  • 未発表の学術論文の知見を引用するときは注意する。
  • 新しい理論と主張のニュース価値を測る助けを学者に求める。誤った情報の拡散を防ぐために、報道機関も異論や反論のファクトチェックをする必要がある。
  • 科学のトピックをよく取材しているジャーナリストの記事を読む。

他のジャーナリストからのアドバイス

ベテランの健康ジャーナリストで感染症と世界の保健安全保障の専門家でもあり、「21世紀のペスト:SARS物語」「ポリオ:撲滅のオデッセイ」の著者、トーマス・エイブラハムの「GIJNのQ&Aからのヒント」を見てみよう。

キャロライン・チェンは、プロパブリカでヘルスケアを取材担当している。彼女は、13歳の時に香港でSARS流行を生き延び、その後、記者としてSARSとエボラ出血熱を最前線で取材した。この記事でチェンが焦点を当てているのは、COVID-19を取材する時に何を質問するか、見込みや予測、急速に変化する情報を扱う際にどうしたら正確さを保てるか、そして何よりも安全を保つ方法についてだ。

健康問題で20年の経験を持つ記者、ジョン・ポープは、豚インフルエンザを取材するための11のヒントを書いている。これは、COVID-19にも当てはまる点がある。彼のヒント集ではとりわけ、基本的な事実をまず取得すること、感染拡大の状況をマッピングすること、物事をシンプルかつ簡潔に保つこと、予防を強調すること、言葉遣いを注意して見ることーが重要だとしている。

IJNet(訳注:世界の記者やメディアに記者教育情報を提供するオンラインサービス)は、COVID-19を取材してきたジャーナリストのアドバイスを元に取材のヒントのリストをまとめている。重要なポイントは以下のとおり。

  • 現場のムードを理解し、自分の仕事に生かす。
  • 分析ではなくレポートに焦点を当てる。
  • 自分の見出しを注意深く見る。
  • 忘れるな:すべての数値が正確であるとは限らない。
  • できるだけ多くの異なる人々と話す。
  • 人種差別的な言い回しを避ける。
  • 専門家にインタビューする方法を検討する。
  • 刺激的ではない題材も無視しない。
  • 限度を設ける。デスクに「いいえ」と言う方が良い場合もある。
  • 物事が落ち着いてきても、その記事を書き切ることにこだわろう。

WHOは、ジャーナリストなど誰でも利用できる一連の神話バスター画像を編集している 画像:WHO

COVID-19のファクトチェッキング

「我々はエピデミックと闘っているだけでなく、インフォデミック(訳注:不確かな情報の大量流布)とも闘っている」と、WHOのテドロス事務局長は2月15日に開催されたミュンヘン安全保障会議で語っている。誤情報や偽情報、ネット上の神話、陰謀説に溢れる現代では、ジャーナリストはこんな悪い情報も暴くだろう。例えば、この伝染病は中国で製造された商品を介したものだとか、科学者がCOVID-19を作成したとか、特定の研究室から出たものだとかー。

ポインターは最近の記事で、少なくとも5カ国の人々―米国、インド、インドネシア、ガーナ、ケニアーが「中国政府はコロナウイルスに感染した2万人を殺す許可を最高裁判所に要求した」という嘘を見たり読んだりした、と書いている。

偽りを暴いたり事実を確認したりするためには、この偽りの“津波”と戦うために協力している39カ国90人のファクトチェッカーを擁する国際ファクトチェック・ネットワークの戦略をチェックしよう。#CoronaVirusFacts / #DatosCoronaVirus連合は2月末までに、この病気に関する558のファクトチェック結果を公開している。 WHOにはコロナウイルスに関する噂を暴く「Myth Busters」(神話バスターズ)のページがあり、ジャーナリストやメディア組織をはじめすべての人が共有できる画像などがある。AFPも「Busting Coronavirus Myths」(コロナウイルスの神話を打ち破る)という同様のサービスを開始している。 First Draft(訳注:グーグルやフェイスブック、ツイッターなどが2015年に発足させた非営利の世界的プロジェクトで、オンライン上の誤った情報と闘っている)がアップしているアドバイスを見ることは常に価値がある。例えば、誤情報の拡散スピードを遅らせることに関する最新の記事やコンテンツの真偽をオンラインですばやく確認する方法についての記事などがある。[原編集者注:First Draftは現在、「コロナウイルス:記者のための役立つ手段」を追加している]。

世界には事実を確認するチームや嘘を見破るスキルを持つ人すらいない多くのメディア会社がある。もしデマ情報や疑わしい情報を見つけたら、各地域にあるしっかりした信頼のできるファクトチェッキンググループに手助けを求めよう。通常、彼らはソーシャルメディアで活発に活動していて、常に情報を探している。

トラウマと犠牲者への対応

私たちは直接会える人間をいつも探し、その自宅や職場を訪問し、記事を書くために不安にさせるような質問をしている。だが今回のような世界的大流行では、被害者はトラウマを生じている。彼らは感染について実名で話すことを望まないだろう。被害者がどこに住んでいるか具体的に知らせることでさえ、そのコミュニティでパニックが広がる可能性があり、被害者の家族をさらに不安にさせる。

The Dart Center for Journalism&Trauma(訳注:コロンビア大学ジャーナリズム大学院のプロジェクトの一つで、暴力や紛争、悲劇を取材する世界中の記者のための報道とトラウマに関するシンクタンク)は、COVID-19報道に際してジャーナリストのために役立つ手段を集めてリスト化している。そこには、ガイドやヒント集、実情報告、優れた実践例、被害者や生存者のインタビューの専門家、トラウマを生じそうな出来事に遭遇した同僚たちとの働き方に関する専門家のアドバイスなどがある。Center for Health Journalismのこの記事でもトラウマを経験した人へのインタビューについて幾つかの教訓が盛り込まれている。ヒントの概要は次のとおり。

  • 被害者には尊厳をもって接する。被害者の側から話に「誘って」もらおう。
  • 被害者がインタビューのタイミングと設定を指示することをOKする。カウンセラー(の同席)を認める。
  • 透明性を保つ。被害者をどう記すか(訳注:名前を出すか、どう出すかなど)を説明し、理解を得る。
  • 記事を出すことより人間性を重視する。被害者が良い状態でいられることを第一に、記事はその次に。
  • 最初に最も難しい質問をして被害者を圧倒しない。共感しながら聞く。
  • トラウマを受けた被害者を繰り返し取材すると、自分自身がそれによって打撃を受けることもある。

Dartの最後のこのヒントは、我々全員が注意すべきアドバイスだ:

「自分自身のことも気遣おう」


<著者について>

Miraj Ahmed ChowdhuryGIJN in Banglaの編集者。バングラデシュを代表するメディア開発団体でGIJN加盟団体でもあるManagement and Resources Development Initiative(MRDI)で事業と広報を統括。主に放送メディアで14年のジャーナリズム経験がある。

Republish our articles for free, online or in print, under a Creative Commons license.

Republish this article


Material from GIJN’s website is generally available for republication under a Creative Commons Attribution-NonCommercial 4.0 International license. Images usually are published under a different license, so we advise you to use alternatives or contact us regarding permission. Here are our full terms for republication. You must credit the author, link to the original story, and name GIJN as the first publisher. For any queries or to send us a courtesy republication note, write to hello@gijn.org.